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TOPソムリエ・近藤佑哉氏インタビュー 米のテロワール・ヴィンテージを語れる数少ない日本酒・「醸し人九平次」

2021.09.14

TOPソムリエ・近藤佑哉氏インタビュー 米のテロワール・ヴィンテージを語れる数少ない日本酒・「醸し人九平次」

2021.09.14

近藤さん

良き原料を求めて自ら育てた米からヴィンテージとテロワールを表現した日本酒「彼の岸 2020」が、装いも新たにリリースされます。
そんな「彼の岸 2020」のテイスティング対談が、コンテストで数々の受賞歴を持つ日本ソムリエ界のホープ、近藤佑哉氏を交えて実現しました。

「日本酒の概念を変えたい」そんな九平次との出会い

久野社長と近藤さん

十時:近藤さんはソムリエとして第一線でご活躍され、国際的に権威ある賞も数多く受賞されていますね。現在は九平次のアンバサダーも務めていらっしゃいますが、初めて九平次のSAKEを口にしたのはいつだったのでしょうか。

近藤氏:2020年の1月に、フランスのトップソムリエたちが全国の日本酒蔵を巡るというツアーの終盤に九平次さん主催のメーカーズディナーがあり、そのディナーを私のレストランで開催して頂いたのが始まりです。

でも、その存在を認識したのは実はPARISなのです。2019年9月、パリへ研修に行った際、関係者から薦められて、改めてパリでの九平次の浸透ぶりに驚かされました。縁は不思議です。そのパリでの出会いがスムーズにディナー会へと繋げてくれたのです。

十時:そうだったのですね、九平次の酒のファーストインプレッションを教えてください。

近藤氏:とてもエレガントで洗練されていて、緻密ながらもエネルギーに溢れた酒という印象を感じました。本当に驚きがあり、私の中の日本酒の概念が変わったことを今でも鮮明に覚えています。

彼の岸

※美しいグラスの持ち方でテイスティングの準備をする近藤氏

近藤さん

十時:そこから近藤さんは、なぜ九平次のアンバサダーを引き受けようと思ったのですか。

近藤氏:そのメーカーズディナーで九平次に大きな可能性を感じ、感銘を受けました。
九平次は長い歴史に甘んじることなく、「革新的かつ原点回帰」された日本酒造りを行っていると聞きました。私も実際に口にした時に、九平次がこだわってきた「原料本来の個性」や「土地」、「その年ごと」の特徴がよく表現されていると言うことがよく分かりました。

ワインでは、それがどんな場所、環境で生産された原料なのか、すなわち「テロワール」が重要視されます。
九平次の日本酒造りは、酒蔵では異例の自社の田んぼを持ち、自ら米を育て上げる。日本酒のドメーヌ・スタイルでの新たな取り組み、 その日本酒造りの思想がワイン造りと同じなことにロマンを感じ、彼らと一緒に仕事がしたいと強く思うようになりました。
ワインや日本酒は、「その造り手を現す」と言います。
緻密で繊細ながらも、活力に溢れた久野社長をはじめとするチーム九平次に惚れたことも大きなきっかけの一つですね。

※兵庫県黒田庄の自社田で山田錦を育てている

十時:では、ソムリエはワインのイメージですが、抵抗感はなかったのですね?

近藤氏:世界のコンクールなどでは、日本酒にまつわる質問やテイスティングが、今や当たり前になっているんです。日本人ソムリエである私が、ちゃんと日本酒の事を理解していないと恥ずかしい時代に入っています。

また九平次さんはお米から育てている。それはお米の事を私自身知る大きなチャンスですし、ワインとの対比ではソムリエにとっては非常にフレンドリーで世界共通の言語を久野さんのSAKEは持っていたからです。そのため抵抗なく、アンバサダーを引き受ける事が出来たのです。

但し私もプロのプライドがありますから、九平次さんのSAKEが私の琴線をくすぐる魅力と、お客様の喜びが想像できなければなければ引き受けませんよ。

また、話を聞いて「えっ!」と一瞬思ったのですが、ブルゴーニュでワインも醸している。久野さんに聞くと、「どうしてもワインを造り、ワインの事を知りたかった。ワインを知る事で日本酒の造り手として新しい扉が開かれると思った。」と言うのです。そこまでやる日本酒屋さんって他にいないですよ!

レカンでは料理とのペアリングに九平次の日本酒・ワインの両方を提供しています。九平治さんは、一人の造り手で、日本酒・ワインの両方をお客様に提案できる唯一無二な造り手なんです。

近藤さん久野社長

エレガントな複雑さ。豊沃なテロワールから生まれた「彼の岸 2020」の魅力とは

十時:「彼の岸 2020」をテイスティングしてみて率直にどうですか?

近藤氏:すごく私の好みですね

久野氏:近藤さん、実は幾つになってもお客様・関係者に目の前で品を差し出す時は、ドキドキするんです。自分で香を確かめて、問題なし。その後一口運んで、問題なし。と確認できるまで、ドキドキなんです。きっと死ぬまでこの感覚は、もう変わらないと思います。

近藤さんに「好み」と言ってもらえて、まずはホッとしていますが、ソムリエさんと造り手が対峙する時は真剣勝負なんです。引き続きもう少し具体的に感想を聞かせてもらって良いですか?

近藤氏:そうですね、まず「彼の岸 2020」を鼻に近づけると、メロンやライチ、ジャスミンのような香りから、華やかな白い花、そしてハーブのニュアンスはミネラルの存在から来ています。クリームチーズや燻製のスモーキーなニュアンスも感じる事ができますそして温度が上がるとトロピカルな南国のフルーツの香に変化していきます。

十時:なるほど。さすがワインのプロですね! 色んなニュアンスが出てきますね!

久野氏:近藤さんの仕事は、造り手とお客様をつなぐパイプだと思うのです。お客様が判り易い様に、その香・味を言葉に置き換えて相互を繋ぐ滑らかで、しなやかなパイプなのです。近藤さんの立ち振る舞ですが、非常にスマートでしょ!(笑)

近藤氏:口に含むと、フレッシュかつソフトな酸味が広がり、とても優雅なエレガントが特徴です。旨味を伴った心地のよい苦味が滑らかなテクスチャーと共に感じられ、複雑性が高かったです。
その場ですぐに飲んでも十分に楽しめますが、少し時間をおいた熟成のポテンシャルも感じさせる日本酒です。それこそ、何年か熟成させてからもう一度試してみたいなと思いました。

近藤さん

久野社長

※知った仲とはいえ、テイスティングは真剣勝負

久野氏:嬉しいです。特に嬉しいのは、「熟成のポテンシャル」を感じ取っていただけた事です。日本酒って早く飲まないといけないイメージが付いている部分もあると思いますが、年単位で熟成していくのです。
ですから弊社はお米の収穫された年号をラベルに入れているのです。

人間も同じです。20代には20代のハツラツとした美しさがあります。その後30代、40代、50代と様々な経験と共に、年齢ごとの魅力が出てくると思います。決してそれは老いではないのです。熟度を増した大人の魅力が増してくると思って下さい。
この女性はまだ20代後半と言うイメージです。

近藤氏:久野さん、この特徴的な他にない香味はどこから生まれるんですか?

久野氏:料理も日本酒もワインも、全ては、その素材の個性とポテンシャルが一番影響を及ぼすと思うのです。自ら育てているこの黒田庄の山田錦なんですけど、実は2020年は長い梅雨の影響で例年の50%しか収穫できなかったんです。

しかしその中でちゃんと育ってくれたお米には生命力がありました。そして黒田庄のテロワールの特徴も出ていると思います。標高が高い谷地と言う特徴がもたらす気品が表現されていると思います。
その品種・テロワール・ヴィンテージの特徴を最大に引き出すのが醸造家の仕事です。

逆説的ですが、テクニカルな技法に頼らず、人の手を極力入れず、ナチュラルに醸してやらなければ、その特徴的な風味は出て来ない物なのですよ。

近藤氏:まさしくワインと同じですね! 土地・品種・ビンテージからくる物語が日本酒にもある事が、SAKEからも感じる事ができますし、ワインの造り手の皆さんも同じ事をおっしゃいます。

2020年のヴィンテージですが、天候の影響で収穫量が半分ですか! そんな背景があったんですね。
お米の毎年の物語をちゃんと理解した上で、私もお客様にサービスする事で、お客様も今までとは違う目線で日本酒を捉えて頂けると思うのです。

久野さんが言う「概念を変えたい。」とはこの部分だと思うのです。以前に「彼の岸2019」も飲ませていただきましたが、その時の印象と2020年は違います。ワインと同様にそんなヴィンテージ違いの楽しみ方ができるのも、自ら米を育てているからです。
自然環境・天候を受け入れ、原料に向き合い、こだわる事が、如何に大切か、再認識させられます。

彼の岸

日本酒の魅力と、その中で九平次が表現する独自の魅力とは

十時:ワインのプロから見た日本酒の魅力とは何でしょうか。

近藤氏:日本酒の魅力は多岐にわたりますが、その中でも大きな魅力の一つが幅広く料理に合わせられることです。
ワインのセオリーとして「魚には白、肉には赤」という概念がありますが、日本酒は和洋中の垣根を越え、魚や肉、または野菜などの様々な食材や料理に合わせることができます。

また、コース料理のペアリングの間に日本酒を加える事でアクセント・転調となり、お客様にとってより奥行きのある体感が出来ることも大きな魅力の一つです。

十時:なるほど、ペアリングの幅の広さが日本酒の魅力なのですね。「彼の岸 2020」を合わせるとしたら、どのような料理が良いのでしょうか?

近藤氏:料理に合わせるのならば、香ばしく仕上げた白身魚のムニエルや滑らかな食感のクリームコロッケ、日本酒と乳製品は 意外と相性が良いのです。お肉の味わいをギュッと凝縮させたパテ・ド・カンパーニュなども相性が良さそうです。
ワイングラスでお楽しみいただければ「彼の岸」の香り・味わい・料理との相性をよりいっそう感じていただけると思います。

十時:なるほど、和食と言う概念ではなく、西洋の料理や肉などさまざまな料理に合うと言う事ですね! その中で、醸し人九平次だけが持つ魅力とは何なのでしょうか。

近藤氏:やはり何と言っても「テロワール」「米」です。
今回いただいた「彼の岸2020」を中心として、その土地の個性やその年のキャラクターを表現されています。従来の日本酒の概念を破り、日本酒の新たな可能性を感じることが出来ます。

そして九平次の日本酒は、一貫してエレガントなストラクチャーが味わいの土台となり、風味を引き立て、そこに「テロワール」や「原料の個性」が重なり合うことで様々な要素を感じることができます。また九平次の特徴のひとつである上品な酸味も、 様々な料理との相性を増幅させ私たちを楽しませてくれます。

 

おわりに

今回の対談で近藤さんの九平次への様々な意見を深く聞くことができた。

プロのソムリエである近藤さんの「彼の岸」のテイスティング表現は、的確で流石だった。「彼の岸」は年によって特徴が違うとの話があったが、日本酒もワインのように、当たり前に年代ごとの飲み比べをする文化ができたら面白いのかもしれない。

また、九平次の原料にこだわる姿勢には、現在の日本酒業界の精米歩合(お米を磨いた比率)至上主義とは一線を引き、酒造りの原点回帰と本質を見つめ直すことを考えさせられた。原料への取り組みは、近藤さんがこれまで培ってきたワインの世界に寄り添い、受け止められていると思った。近藤さんのコメントに「ワイン業界共通の言語で語れる日本酒」とあるが九平治さんの概念を変えたいとは、その言語がはまるSAKEの事だと思った。

このタッグからお客様へ未体験の喜びが提供させる事が、「新たな概念」となっていく事を確信した。楽しみだ。

「彼の岸」の先行予約はLINE公式アカウントのみで公開いたします。
その他、日本酒診断・配送状況確認などもありますので是非登録ください。

※20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されています。
※飲酒時の車の運転、重機械の操縦は法律で禁止されています。
※妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。
※過剰な飲酒は健康問題を引き起こします。適度な飲酒をお楽しみください。

萬乗醸造(ばんじょう じょうぞう)

創業1647年。今や国内のみならず海外のシェフ、ソムリエにも受け入れられる。「醸し人九平次」は、機械的大量生産から脱却をめざし、手造り農家的な仕事へと回帰し、97年、産声を上げる。海外の星付レストランへ売り込むなど、日本酒の世界進出における先鞭をつけた。兵庫・黒田庄に自ら田んぼを持ち、山田錦を育て、さらには2016年からはブルゴーニュ・モレサンドニでワインも醸している。

近藤 佑哉(こんどう ゆうや)

<略歴>
2012年、大学卒業後、銀座レカンにコミ・ド・ランとして入社。
その後、ホテル ニュー・オータニ レストラン トゥールダルジャン・トーキョーなどで研鑽を積み2019年、銀座レカンにソムリエとして戻る。2020年4月より現職。
様々なコンクールで受賞歴があり、日本の若手ソムリエを代表する一人。

インタビュアー:十時悠径

大学ではデザインを専攻し、楽天にコンサルタントとして就職。その後、マネジメント経験を経て株式会社chipperを創業。これまで累計1,000社を超えるD2C立ち上げ・伝統産業・老舗リブランディング支援を行う。